目次

  1. 現代の優れた接客のあり方とは?
  2. アバター接客、将来はリモートワークも
  3. 移動販売車で地域の課題も解決
  4. 人間よりもアバターの方がいい理由
  5. 「接客不要論」とも矛盾しない存在

 コンビニの接客をめぐっては、利用者ごとに意見が大きく異なります。以前、接客に関する記事を公開したところ、「商品さえ買えればいい派」と「接客も大事派」から多くの意見や感想をいただきました(詳しくは過去記事「客側の態度に問題あり? コンビニの接客はどうあるべきか【読者の声から】」を参照)。

 前者の「商品さえ買えればいい派」の方々は、接客不要の立場を取ります。「私に話しかけないでほしい」「私を認知しないでほしい」というニーズが根強くあるのです。

 コンビニは自宅や職場の近く、あるいはその途中という生活圏にあります。プライバシーに対して敏感になるのは理解できます。

 男女問わず、寝起きのままでも利用できるのがコンビニの良さです。顔も洗わず、パジャマ代わりのスウェット姿で買い物ができます。まさにセブン-イレブンのキャッチフレーズである「近くて便利」なお店です。だからこそ、お客は匿名の存在でいたいのかもしれません。

 たとえ毎日来店するお客であっても、「私に関心を示さないでほしい」という雰囲気を漂わせているなら、店側は初めてのような態度で接する――。そんな気遣いも、現代の優れた接客のあり方かもしれません。

 一方、接客不要論とはまったく逆のことが、1972年6月に中小企業庁が刊行した「コンビニエンス・ストア・マニュアル」に書かれています。このマニュアルには、当時70万軒あったとされる中小食品店に、近代的な小売業「コンビニエンスストア」への転換を促す意味合いがありました(詳しくは過去記事「『レジは最後のとりで』は本当? コンビニの接客はどうあるべきか」を参照)。

 当時、安売りを武器に出店を加速するスーパーマーケット勢力に、中小食品店は苦しめられていました。セブン-イレブンが日本で創業する2年前のことです。日本にはコンビニのお手本がなく、すでに隆盛を誇っていたアメリカのコンビニをモデルにしたと考えられています。

 コンビニ経営の概要を紹介したマニュアルの最後に、次のような記述があります。

 「顧客との関係はセルフサービス方式を採用するものの、顧客との密接な人間関係の形成が必要であり、接客精神と技術が重要な意味を持つ」

 自由に商品を手に取れる「セルフ販売」と、1対1で向かい合う「レジ接客」という、一般的なコンビニの販売方式は、ここから来ています。

 一方のスーパーマーケットは、客数もレジの数も多く、ベルトコンベヤーのようにお客が流れていきます。コンビニがスーパーマーケットと差別化するための武器の1つは「対面接客」だと、しっかり定義されていました。

配達業務の多かった昔の酒販店のイメージ(イラストbyろじ / PIXTA)

 接客重視への反発は、当時ほとんどなかったはずです。コンビニ草創期に加盟したオーナーの多くは中小食品店で、中でも酒販免許を持つ酒販店は重宝されました。他にも米穀店、青果店、一般食料品店などが、自ら多くの資金を投じてコンビニチェーンに加盟しました。

 もともと酒販店の多くは御用聞き(配達サービス)をしていましたし、他の中小食品店にもお得意さんがいて、当たり前のように接客をしていました。アニメ「サザエさん」に登場する御用聞きの「三河屋さん」は、東京・世田谷にある実在の酒販店で、後にセブン-イレブンに業態転換したのは有名な話です。

セブン-イレブンの配達サービス「セブンらくらくお届け便」。加盟店の意思で実施している(筆者提供)

 ちなみに、セブン-イレブン加盟店が自ら御用聞きをして商品を配達するサービスは、脈々と受け継がれてきました。2012年8月には、トヨタ車体の新型EV「コムス」を使った「セブンらくらくお届け便」に進化し、店内のほぼ全商品を配達する買い物支援サービスが提供されています。

 コンビニチェーンの中でも、セブン-イレブンは「コンビニ接客」を重視しています。セブン-イレブン・ジャパン社長の永松文彦氏、持ち株会社のセブン&アイ・ホールディングス社長の井阪隆一氏を始め、幹部は軒並み1980年代に店舗勤務を経験しています。「顧客との密接な人間関係」「接客精神と技術」を実践してきたはずです。

 時代は変わりました。半世紀前に中小企業庁(のマニュアル)が説いた「顧客との密接な人間関係の形成が必要」「接客精神と技術が重要な意味を持つ」という主張に共感する人は多くないかもしれません。

 そんな背景もあり、コンビニに新しい接客手法が登場しました。

 ローソンは2022年11月末にオープンする店舗で「アバター接客」を導入します。遠隔地の従業員がCGキャラクターとして、お客の「お困り事」に応える接客サービスです。

 ローソンの発表会見で披露されたデモンストレーションでは、「セルフレジの使い方が分からない」というお客の問い合わせに、淡路島にいる従業員がアバターとして対応しました。こうした精算のサポートのほか、新商品の説明、エンタテインメントの提供など、新しいコミュニケーションを展開するといいます。

 従業員側は当面、ローソンが指定する場所に出社してアバターに扮します。将来的には自宅などでのリモートワークも認められる可能性があるそうです。

「グリーンローソン」でセルフレジの操作をサポートする「セルフレジサポートアバター」(筆者撮影)

 アバターを使えば、1人が同時に複数店舗で働くことも可能です。長期的には、深夜の防犯対策、専門家へのオンライン相談、地方特産品の販売などへの活用も検討します。

 ローソンは、アバター導入による新たな可能性を4つ挙げています。

 1つ目は多様な働き方です。ローソンで勤務経験のある外国人は、帰国後に母国でアバターとして働けます。地球の裏側に住む従業員が、昼間にローソンの夜勤として働くことも可能です。

 2つ目はオンライン相談です。アバターが1人いれば、複数の店舗に対し、非対面の健康相談やカウンセリングを提供できます。ただし、処方箋(しょほうせん)なしで購入できる市販薬(OTC医薬品)を販売するには、登録販売者が店頭にいなくてはいけないため、課題は残ります。

ローソンは移動販売車へのアバターの搭載も検討している(筆者提供)

 3つ目は地域貢献です。ローソンは商品を積んで集落を回る移動販売車を各地で走らせ、主に高齢者の買い物をサポートしています。移動販売車にアバターを搭載することで、地域の課題解決につながるといいます。

 どういうことでしょうか。移動販売車にはローソンで扱う商品だけを載せているため、多くの機会損失が発生しているそうです。例えば「スクーターの調子が悪い」「家の水回りを直したい」「ローソンでは扱っていないが、こんな商品はないのか」といった相談があります。専門知識を持ったアバターが移動販売車で現地に同行することで、こうした悩みを解決するといいます。

 4つ目はエンタメ活用です。アバターを使った動画投稿や配信活動を行っているバーチャルYouTuber(VTuber)が「1日店長」を務めるといった催しも考えられます。

AVITA社長の石黒浩氏(左)とローソン社長の竹増貞信氏(筆者提供)

 ローソンの竹増貞信社長は「単なる冷たいデジタル化ではなく、人の温かみのあるロボティクスを目指しています。明るく楽しい全員参加型の社会。そういう思いを持って、アバターの活用にチャレンジしていきます」と語っています。

 ここで、ある疑問が浮かびます。現実の人間をわざわざCG化して、姿や声を変える必要があるでしょうか? そのまま本人を画面に映せばいいのではないでしょうか?

 ローソンに技術を提供しているAVITA社の社長で、大阪大学教授の石黒浩氏によると、本物の人間よりアバターのようなCGエージェントの方が、お客にとって相談しやすいというデータがあるそうです。また、一般的にアバターは、男女双方に受け入れられやすい中性的なキャラクターが多いといいます。ローソンでは話し掛けやすいデザインにしています。

ローソンが予定しているアバターの画像(ローソンホームページのアバター従業員募集の告知より)

 一方、従業員の立場から考えると、多くの人に受け入れられる「見かけ」で働くことができます。顔を出したくない人にも気軽に働いてもらえるのが、アバターのメリットだといいます。

 個人的な感想を述べると、筆者自身、店頭での接客経験があるため、仮に採用されれば、今でも店頭に立って接客業務をすることは可能だと思っています。ただ、現実として、接客業務にあたるのは若い人たちが中心です。あと数年で高齢者の仲間入りをする筆者からすると、年齢の面で心理的なハードルがあります。一方、オンラインのアバターとして店舗運営に参加するのであれば、そうしたハードルは感じません。

 縦軸に「実名か匿名か」、横軸に「実世界か仮想世界か」を取ると、アバターやSNS、テレビ会議などは次のように分類できます。それぞれに長所と短所があります。

アバターやSNS、テレビ会議などの位置づけ(ローソンの記者会見で提供されたAVITA社の資料をもとに筆者作成)

 AVITA社の石黒氏によると、良い対話サービスには、プライバシーに関わる情報が少なからず必要です。例えばカウンセリングやコーチング、薬の問題や生命保険などがそうで、私的な情報を開示することで、より深く丁寧なサービスを受けられる傾向にあります。

 一方、プライバシーに関する相談は「生身の人間よりアバターの方がしやすい」と感じる人々も一定数います。こうした分野からアバターを導入し、近い将来、人間とアバターが共生する新しい世の中を実現したい、というのが石黒氏の考えです。

 時代の変化を踏まえると、アバターによる接客は理にかなっている面もありそうです。

 まず、「接客不要論」を唱える人にとって、アバターは邪魔な存在ではありません。必要な時だけ話しかければいいし、相手がいつも同じ人とは限らず、しかも遠隔地にいて、生活圏が交わることはほとんどないでしょう。

 また、コロナ禍以降、「非対面」「非接触」のサービスが一定の支持を得ています。アバターはこの潮流にも乗っています。

 さらに、話し相手を求める高齢者にとって、アバターがちょっとした相談相手になってくれるかもしれません。コンビニの店舗では、お客自身がバーコード読み取りから精算、袋詰めまで行うフルセルフレジの比率が徐々に高まっています。一方で超高齢化社会の進展で単身世帯も増え、店員と話したいというニーズは少なからずあるためです。