目次

  1. プライシングとは
  2. 中小企業のプライシング戦略 事例を紹介
    1. 「高いと売れない」と言われても 1個300円の「ラムドラ」
    2. 「ミシュラン店と同じパン粉」だけじゃない 中屋パン粉工場の提案力
    3. ニット帽の倍の値段でも人気 サトーはおしゃれ心を満たすデザイン
    4. 値付けを市場に委ねない 養豚を6次産業化した「ふくどめ小牧場」
    5. 売れ残りが招く値付け問題 エルクはPOSレジで解消
  3. 値上げの交渉力を高める9つのポイント

 プライシングとは、自社の商品・サービスの価値を見極めるという経営者の重要な仕事です。

 もちろん、材料費や人件費などの諸経費から積み上げて計算する方法もありますが、稲盛和夫OFFICIAL SITEでは「製品の価値を正確に判断した上で、製品一個当たりの利幅と、販売数量の積が極大値になる一点を求めることで行います。またその一点は、お客様が喜んで買ってくださる最高の値段にしなければなりません」と指摘しています。

 プライシング戦略には、大きく分けると、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのかという2つの軸があります。ただし、価格競争となると、コスト面で、大手企業や海外企業になかなか勝てません。

 そこで、自社の強みを生かしたプライシングに取り組んでいる事例を紹介します。

ラムドラのラムレーズンの数は7粒と決まっていて、1粒ずつ手作業で餡の上に載せる(梅月堂提供)

 江戸時代から栄えた鹿児島県日置市の湯之元温泉。その温泉街の一角にあるのが1921年創業の和菓子店「梅月堂」です。4代目は、根強い人気のあったどら焼きをもとに、ヒット商品「ラムドラ」を生み出します。

 どら焼きは元々、1個100円。ラムドラは1個300円です。それでも販売が始まると、ラムドラは飛ぶように売れました。県外での人気も高まり、販路が少しずつ広がり始めたのです。

中林さんは提案型のスタイルで顧客倍増を実現しました

 東京都品川区の中屋パン粉工場は、全国でも珍しいパン粉専門の製造工場です。自社製のパンを焼き上げて作るパン粉を900社の取引先に販売し、ミシュランガイドに掲載されたとんかつ店の8割で使われているといいます。

 安い価格設定と顧客の固定化という経営課題を乗り越えるため、パン粉のブランディングと顧客伴走型の提案営業に注力して顧客は倍増しています。

がん患者用帽子ブランド「シャンヴルマキ」を立ち上げたサトー4代目の佐藤麻季子さん

 サトー(東京都台東区)は1912年に創業したハットメーカーです。舌がんの宣告を受けた4代目が立ち上げたのが、「シャンヴルマキ」。

 くしくも闘病前からあたためていたのは、脱毛に悩むがん患者向けの帽子ブランドでした。患者の思いに徹底して寄り添ったその帽子は、2023年7月に発売すると瞬く間に評判となりました。

加工場でハムを作る次男・洋一さん(ふくどめ小牧場提供)

 豚はどんなにコストをかけて育てても、赤身の多さで市場の値付けが決まってしまいます。そこで「自分たちで育てた豚は自分たちで売らないといかん」という信念を持っていた、ふくどめ小牧場(しょうぼくじょう=鹿児島県鹿屋市)は養豚、加工、販売まで一貫して手掛け、6次産業化を進めています。

エルク2代目の柳澤隆広さん(左)と父の仁さん(右)(注釈のない写真はすべて筆者撮影)

 甲府市のアウトドア専門店「アウティングプロダクツエルク」(エルク)は1983年に創業し、登山用品などの豊富な品ぞろえや積極的な登山情報の発信で、多くのアウトドアファンの心をつかんでいます。

 ただし、10年以上前の値札がついた商品が混在すると、顧客に誤解を招くこともありました。そこで、POSレジを導入することにしました。

 BtoB向けの企業では、プライシングは取引先との交渉も重要になってきます。自社よりも規模の大きい相手に、値上げ交渉を進めるために必要な9つのポイントを紹介します。