事業再構築補助金の採択結果に新規事業のヒント 注目のキーワードを抽出
コロナ禍で売上の落ちた既存事業に代わる新規事業に取り組む企業が増えています。新分野展開、業態転換に取り組むための「事業再構築補助金」の第1回公募の採択結果をもとに、医療、オンライン、AI、アウトドアなど新しいビジネスのヒントを紹介します。(2021年9月2日更新)
コロナ禍で売上の落ちた既存事業に代わる新規事業に取り組む企業が増えています。新分野展開、業態転換に取り組むための「事業再構築補助金」の第1回公募の採択結果をもとに、医療、オンライン、AI、アウトドアなど新しいビジネスのヒントを紹介します。(2021年9月2日更新)
目次
事業再構築補助金とは、予算規模が1兆1485億円に上る2020年度第3次補正予算で注目された事業の一つです。
変化の激しいコロナ禍の経済社会に対応しようと、新規事業に取り組む中小企業などに向けた補助金です。2021年度に通常枠では5回程度予定されています。
2021年6月、事業再構築補助金の第1回公募の採択結果が発表されました。採択率は、緊急事態宣言特別枠で約55%、通常枠で約30%でした。
この採択結果について、補助金事務局は6月22日、中小企業庁の村上敬亮・経営支援部長へのインタビュー動画を公開しました。
インタビューから、今後の申請に役立つポイントを抜粋します。
事業再構築補助金の申請では、事業計画書は15ページ以内という指定があります。
村上部長は「短くコンパクトにして書くことで大事なポイントが見えてくる。様々な不安や問題があるなかで、着目する項目を特定することが成功の秘訣。成功しそうな事業計画ほどコンパクトにまとまっている」と評価しました。
「この事業計画でなぜ顧客(売上)が増えるのかという根拠の説明が弱い提案が8割方だった」。第1回公募の内容をもとに村上部長は課題を指摘しました。
たとえば、宿泊業では、ワーケーション型に施設を作り変える、コワーキングスペースとして活用するという申請内容が多かったといいます。
「大宴会場をコワーキングスペース用のスペースに活用すると、360人の宿泊客が550人になるなどと書かれており、なぜ550人になるかの根拠が書いていない」
また、製造業は、製造の計画はしっかり書かれていると評価しつつも「たとえば、植物エキスを抽出する設備を導入し、健康食品のためのエキスの市場を作るという事例があったが、問題はそのエキスを誰がいくらで、どれくらい買い取るのかの説明がない」と指摘。
さらに「今までは取引先との接点までは考えていたが、その取引先が、どのように加工し、どのマーケットに投入し、どんな戦略でどのくらい販売するか考えたことも調べたこともたぶんない」と付け加えます。
事業計画書上では、設備の稼働率を採算ラインにして、全量が売れるという前提になっていたといいます。これまで取引先の大企業が市場予測をして、発注していたため、中小企業にマーケティングのノウハウが蓄積されていないことが影響しているとみています。
「設備投資して製品をつくり、販売してみなければ市場はわからないという判断になりがち。姿勢としてはもうちょっと貪欲に、調べてみようと。
ただ、たぶんそれは(認定支援機関だった)銀行さんもできなかったということだろうと思う。伴走した専門家も手が付けられなかったということだから、個々の企業の課題というよりも、マーケティングのためのデータをとる、何を学べば、何を見れば良いのかがみなさんの身の回りにないことを学びました」
一方で村上部長が動画のなかで注目していたのが、地方のタクシー会社の事例でした。
「運ぶだけでは付加価値つかないので、地域のタクシー会社が地域のサロンをつくった。交流スペースをつくって出し物やイベントをしたり」と紹介。
顧客の行きたいところに合わせるのでは回せるタクシーの台数が足りないので、逆にサロンをつくって行き先を集約することで、少ない台数でも実現できるビジネスモデルだとして取り上げていました。
9月2日には第2回目の公募の採択結果が公表されました。採択率は、緊急事態宣言特別枠で約67%、通常枠で約36%でした。
緊急事態宣言特別枠……応募数5,893社、申請要件を満たした数5,078社、採択数3,924社
通常枠……応募数14,859社、申請要件を満たした数13,219社、採択数5,388社
卒業枠……応募数48社、要件を満たした数36社、採択数24社
このほか、事業再構築補助金の採択事業から、特徴的だった分野をいくつか紹介します。第1回の公募は緊急事態宣言特別枠など4つの申請枠がありますが、条件を統一するため、通常枠の約5000の採択事業からいくつかのキーワードを抽出しました。
「医療」というキーワードが含まれる採択事業が200件以上ありました。高度な加工技術を生かし、新たな設備を導入するといった内容が多く見られました。
医療機器となると、医薬品・医療機器等法(薬機法)など、厳しい安全基準をクリアする必要があります。ハードルはとても高い一方、認可を受けられると競合他社の参入障壁になっているという特徴もあります。
飲食関連でも多様な採択事業がありました。とくに「テイクアウト」という言葉が含まれる事業は約80件ありました。
具体的には、ドライブスルーを用いた郊外型非対面テイクアウト販売と非接触型店舗の構築や、テイクアウト専用ハンバーガー店などがありました。「オーストラリア、ポルトガルレストランから希少なラム肉を使用したレストランとデリバリーテイクアウト」など特色を生かそうとした事業もありました。
このほか、フレンチ、おせち、贅沢スイーツなどの冷凍関連のキーワードが含まれる事業が39件、「クラフトビール」関連が20件、「セントラルキッチン」(複数のレストランなど調理を一手に引き受けることでコストダウンをはかる仕組み)も20件ありました。
村上部長は「大変な飲食店があるのも事実。その一方で、にぎわっている飲食店もある。お客さんを集めている飲食業や宿泊業の業態があるというところにこの業種の未来の方向性があるのではないか」と話しました。
オンラインと既存事業の強みを活用した新サービスも100件近くありました。「オンライン」というキーワードが含まれる事業の例を紹介します。
AIを活用した新サービスも80件ほど採択されています。
コロナ禍で人気の出たキャンプ・アウトドアの関連事業もそれぞれ42件、36件採択されました。
キャンプでは、「手ぶらキャンプ場」や「RVパーク」の開設、里山環境を味わうキャンプ場の設立・運営、絶景サウナキャンプでの経営合宿特化型ワーケーションなどがありました。
アウトドアでは、「アウトドアライフ」の需要に応える金属タンブラーの開発販売、旅館でアウトドア気分を楽しむ「べランピング客室」、アウトドア用高性能鍋開発、アウトドア市場を捉える薪製造・販売事業などがありました。
冒頭の写真で登場した乗富鉄工所のように、他事業からアウトドア用品の開発に取り組む事業の採択もありました。
最後に「脱炭素」など注目されているキーワードが含まれる採択事業をいくつか例示します。
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