脱「仕事は言われたことだけやる」 自主性を育てるマインドセット
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従業員の「指示待ち」「言われたことだけをやる」「言われたことしかできない」マインドを変えたいという経営者向けに、経営者へのインタビューなどをもとに、自主性を育てるマインドセットに役立つ事例・アイデアを紹介します。
従業員の「指示待ち」「言われたことだけをやる」「言われたことしかできない」マインドを変えたいという経営者向けに、経営者へのインタビューなどをもとに、自主性を育てるマインドセットに役立つ事例・アイデアを紹介します。
目次
トップダウン型の組織である場合、意思決定が速く、効率的な経営には向いています。ただし、変化の激しい今の社会では、従業員が責任と主体性を持って仕事に取り組める組織作りをしている企業が多くみられます。
これまでの取材から、従業員の「指示待ち」「言われたことだけをやる」「言われたことしかできない」マインドになってしまっている理由を分類してみました。
「言われたことしかできない」組織になっている場合は、自分なりの工夫をすると怒られるだけだといったことから、学習性無気力(Learned helplessness)に陥っている可能性があります。
学習性無気力とは、ストレス回避困難な状態に長期間さらされると、その状況を回避することをあきらめて無気力になる状態を指します。セリグマン(Martin E. P. Seligman,1967)にイヌを用いた実験をもとに提唱しました。
さらにエイブラムソン(Abramson, L.Y., 1978)らは、「改訂学習性無力感(PDF)」を提唱し、無気力状態になるのは、回避困難な状態だけでなく、どのように解釈して受け止めるかも重要な要因だと指摘しています。
役職者の指示が曖昧な場合、なかには、自由度が高いとやる気を出す人もいますが、多くは困惑するでしょう。
もしかすると、役職者が指示を曖昧にしているのは、組織のメンバーの考える力を養い成長を促そうとしているのかもしれません。しかし、やるべきことの方向性や目標が曖昧だと、メンバーは何に取り組むべきか、何を達成すべきかがわからず、目の前の指示に従うだけになりがちです。指示をする際は、最低限、なぜこの業務をやるのか、メンバーが「腹落ち」できるようにすることが大切です。
このほか、管理職が、求められている仕事をミスなく、自分の思った通りにこなしてくれる人を評価しがちではありませんか?失敗を許容しない、または過度に責任を問う文化があると、従業員は安全な選択として指示に従うだけになります。
組織のメンバーの意識を変えて「仕事は言われたことだけやる」から脱却するために、まず経営者自身がグロースマインドセットを持ちましょう。グロースマインドセットとは、キャロル・S・ドゥエック・スタンフォード大学教授が提唱している考え方で、能力は経験や努力によって伸ばすことができるという考え方です。成長型マインドセットとも言います。
もちろん長年持ち続けている考え方を変えることは簡単ではありません。そこで長年持ち続けている考え方を切り替えるためのヒントを紹介します。
「言われた通りにやる」から卒業するには、小さな成功体験を積むことから始めましょう。考え方は急には変わりません。まず、日頃のコミュニケーションから従業員のアイデアを引き出し、提案すれば変わるという手応えを感じてもらいましょう。
各種精密測定工具を製造・販売する「新潟精機」 2代目の五十嵐利行さんは、「この課題について、〇〇さんはどう思うの? どのように改善すればよいと考えているの?」といった具合に、社員が考えるクセをつけるよう、お題を投げるようなコミュニケーションを意識していたといいます。
精密板金加工を行う町工場「山崎製作所」 2代目社長の山崎かおりさんは「社員たちに心を開いてもらい、風通しの良い環境をつくるためにはどうしたらいいかと考え、コミュニケーション研修を始めました。ファシリテーターの講師を招き、ゲーム形式の自己紹介を通じて、プライベートな話をしたり、自由に意見交換したりする機会を設けました」と話します。
その結果、社員発のプロジェクトチームが生まれたり、5S活動やISO取得への取り組みが自主的に行われたりするようになったといいます。
心理的安全性とは、簡単にいうと、「率直に発言できる組織風土」です。
記事「心理的安全性の作り方は?必要な心得や実践・測定方法を事例で紹介」によると、「組織の心理的安全性が高いと、自分の意見を率直に言えることから、社員がチャレンジ精神を持ちやすくなります。経営者や上司とも積極的に対話できるようになるでしょう。結果として多くの価値創造ができる組織となります」と紹介しています。
具体的に心理的安全性を職場で作る方法として以下のように紹介しています。
金属加工を手掛ける「山本精工」3代目社長・山本正人さんは、山本さんは、ボトムアップの風土を根付かせるためには、従業員にとって「自分の提案が批判されずきちんと実現する」という経験が大事だと考え「なんでも言って委員会」と呼ぶ会議を立ち上げ、実際に200万円かけて「動線をよくするために、工場の壁を抜いてほしい」という提案を実現しました。
「日本でいちばん休みの多い会社」「ユニークなアイデアを生み出す提案制度」で有名な未来工業創業者・山田昭男氏による経営論をまとめた「日本でいちばん休みの多い会社」は、アイデア1件につき500円が支給される提案制度、失敗を称賛する評価基準などを紹介しています。
記事「自主性を高める5つの方法とは?社員を育てる具体的な事例とメリットも解説」は、失敗を責めないだけでなく、最終責任は社長が取ると明言しておくことも重要だとしています。
識学シニアコンサルタントの岡根谷真介さんは、次のように解説しています。
社員が懸命に努力した結果の失敗については、何の指導も要りません。叱責などもっての外です。失敗は成長につながるのですから、経営者は社員にどんどん挑戦をさせるべきでしょう。
「ホワイト過ぎて辞める」はなぜ起こる? 成長を実感できる職場のつくり方
例えば、「1週間で100万円を売り上げる」という目標を掲げた社員が、80万円しか売れなかったとします。こんなときは、直属の上司が「じゃあ、どうする?」と聞くだけで十分です。もちろん、感情を表に出さず、あくまでも淡々とです。
「なぜできなかったの?」と尋ねるのもやめさせましょう。過去は変えられません。理由をほじくると叱責にもつながりかねません。
「じゃあ、どうする」と尋ねられた部下が、自分なりの改善策を考え、それを行動に移した結果、目標を達成すれば、確実に成長を遂げたことになります。
注意すべきは、上司と部下との間で感情的なやり取りを控えるようになると、部下の方は「話しかけづらい」と遠慮し、上司に必要な報告を怠る恐れがあることです。
こうした事態を防ぐには、「社員は何か分からないことがあれば、いつでも上司に相談できる。上司は必ずそれに答える」というルールを、経営者が設けるといいでしょう。
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